幾何への誘い

『幾何への誘い』小平邦彦(著)

書評
執筆責任者:Hiroto
なぜ義務教育で幾何学を子供たちに教える必要があるのか、考えたことはあるだろうか。考えた経験はあるにしても、その理由をはっきりと言葉で説明できる人は少ないように思える。三角形の面積などの実生活に即した測量レベルの話ははっきりと“役に立つ“と断言できる。しかし、メネラウス・チェバの定理が成り立っていることが、一体どのように“役に立つ“と言えるのだろうか。幾何学というもののこういった性格上、しばしば義務教育に(初等)幾何学は必要ないといった意見まで耳にすることがある。今回紹介する本は、権威ある数学者である小平邦彦先生が一般向けに幾何学について記した本であり、細かく数学に立ち入った話を抜きにして読んでも、幾何学の学問上の性格やその重要性を感じることのできる名著である。この本を読んでいただく動機を促進するため、ここでは幾何学という学問の性質についてもう少し考えを深めることにする。そもそも幾何学とは「目で見える」直観的性質をもつ学問である。しかしながら、義務教育では直観を排すべき「論理・証明」の運用教材として扱われている。実際のところ、歴史的にも幾何学は直観と論理性との狭間で揺れ動いてきた学問であり、直観と論理が複雑に絡み合っている数学の世界を感じ取る一つの箱庭として、幾何学という一分野は絶好のものだといえる。本書でもそういった歴史的背景に触れており、論理を重視した現代の幾何学と直観を重視した古典的な幾何学とを比較し、そしてそのオリジナルな折衷案である小平先生の考案した幾何学も紹介されている。数学はその論理的厳密性から敬遠されることが多い学問であるが、小平先生はそれを極めた人間でありながら、直観の重要性を強く訴えていた数学者の一人である。そんな先生が直観と論理の微妙な関係について語った本書は、論理的に考えても直観的に考えても読む価値があると言えるだろう。
(784文字)

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