『無限と連続』遠山 啓 (著)
書評
執筆責任者:チクシュルーブ隕石
わたしたちの世界は無限と連続に満ちあふれている。連続という言葉は日常でよく目にするものであるのに加え、私たち人間の決めごとが正しく履行されることを担保するにおいて重要な概念である。同様に無限という概念も広く知られている。正確な定義とは何かを知らずとも、その言葉は私たちの中にすっかりと馴染んでいるものである。しかし、ひとたび「数学」において無限と連続とは何か、それらの繋がりはどんなものであるかを問うてみれば、先ほどまでのカジュアルな雰囲気は一掃され、その言葉を口にする者の数は少なくなる。無限と連続というテーマは日常の場面と数学の場面において大きな乖離があることに疑いの余地はない。本書『無限と連続』では、題名にもなっている「無限」と「連続」といったものの関係の説明やそれに関する概念の拡張の意味を、大学数学に触れたことの無い初学者でも分かりやすい言葉で論じている。数学の基礎とも言える集合論について触れている章では、濃度の説明や順序について述べられている。「自然数と整数の集合の要素の個数は同じである」という濃度の説明は初学の状態では度肝を抜かれるように思う。これは、無限が引き起こすブラックボックスのような作用を実感するのにはベストなのではなかろうか。また位相の章では、距離空間の導入を1次の距離空間である数直線から始めて2次、3次、4次と進めていき、無限の次元でも距離空間について考えることができることを丁寧に説明している。いずれの説明も歴史的な背景やその動機を押さえた上で、日常で使われる言葉を交えながら数学的な核心を捉えている。そのために、初学者に対しても一度数学を学んだ者に対しても極めて良書である。
(707文字)
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