数学する精神

『数学する精神』加藤文元(著)

書評
執筆責任者:Hiroto
今回私が紹介する書籍は、加藤文元著『数学する精神』である。著者の加藤文元先生は、『宇宙と宇宙をつなぐ数学 IUT理論の衝撃』の著者でもあり、名前を聞いたことのある向きも多いかもしれない。本業は数学者である。しかし今回紹介する書籍は決して専門書ではなく、中公新書から出版された一般書であり、数学に義務教育等で触れたことのある人全員が本書の読者たりうる。というのも、本書では「数学の知識」を伝えることは目的ではなく、数学的具体例を用いて、「数学そのもの」、そして「人間の思考形式」をメタ的に浮き彫りにすることが目的となっているからだ。少し詳しく踏み込もう。本文をお読みの皆さんは、数学にどのようなイメージをお持ちだろうか。「記号」「計算(演算)」といったキーワードは、比較的数学のパブリックイメージとして持ち出されることが多いと感じる。確かにこれらは数学の非常に重要な一側面ではあるが、極論すればコンピュータでも実行可能だ。本書において数学とは、「人間」が「する」ものであり、そこには人間の「精神」性が大きく反映されると主張されている。そこで人間とコンピュータを区別するキーワードとなるのが「正しさ」と「美しさ」だ。もっと踏み込めば、「メタ視点」こそが人間を人間たらしめていると大雑把に言ってしまっても良いだろう。コンピュータは「モデルの中での正しさ」を判定することはできても、「モデルそのものの正しさ」を判定することはできない。形式的な演算を行う「土台(モデル)」を定めるのは他でもない人間であり、その定め方は「美的直感」に依拠する。このような議論をベースとして、本書には人間のメタ的、直感的能力の数学的な例が多数紹介されている。AIとの対比で人間の創造性が重視される現代に、それこそ数学の話のみに捉われない「メタ視点」を持って本書を読んでみてはいかがだろうか。
(782文字)

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