零の発見

『零の発見』吉田洋一(著)

書評
執筆責任者:チクシュルーブ隕石
零が数であるという発見が実に偉大なものであるという事を認識しながら生きている現代人はどれほどいるだろうか。位取り記数法が当たり前のものとなった現代では、零の偉大さを実感することは非常に困難である。本書の著者である吉田洋一氏は数学者で、とりわけ数学教育に熱心であった。本書は高校課程まで数学を学んだ人に向けて書かれた通俗的書物と位置付けられているものの、零にまつわる数学の発展の歴史に焦点が向けられているため読者を選ぶ類の本ではない。また、その初版は1939年であり大変長く愛されている古典的な名著である。本書は2部構成となっており、前半は「零の発見」という見出しで、かつて多用されていたソロバンによる計算から位取り記数法へと踏み出すまでの歴史の流れと零の重要性について語られている。後半は「直線を切る」と題され、幾何学をその起こりとしたギリシアの数学の歴史を語りの軸として、円周率や無理数、無限、連続、デデキントによる切断(これがまさに直線の切断となっている)といった概念の発見とその発展について語られている。冒頭でも述べたが、現代に生きる私たちは10進法による位取り記数法に非常によく慣れ親しんでいる。位取り記数法で任意の数を表すのにあたって、零という概念が必須である事は当たり前だが、私たちが日常生活の中で何もない事を0個というように表現することは稀である。このように、当時からすれば奇怪とも言える零という概念を受け入れる事が、非常に困難であったことは想像に難くない。また零なる概念を発見したことによって、人類は無限という概念に踏み込んでいくことになる。これがまさに「直線を切る」という話に繋がっている。今日私たちが当たり前のものとして認めている零は、先人たちの多大なる努力と知的好奇心によって発見された概念なのである。是非このことに思いを馳せながら本書を読み、数学の転換点に立ち合う事を勧める。
(800文字)

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基礎教養部

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