哲学入門

『哲学入門』戸田山和久(著)

書評
執筆責任者:西住
哲学入門。仰々しいタイトルである。それでいて、タイトルと内容が一致していない。これは哲学入門の本ではない。より厳密に言えば、従来の哲学入門の本ではない。この本には過去の高名な哲学者が全く出てこない。ソクラテスもプラトンもデカルトも全く出てこない。その他有名なあの人も出てこない。カントは一瞬だけ出てくるが、すぐに退場する。その代わりに出てくるのは、デネット、ドレツキ、シャノンなど、哲学を多少齧っている人でもほとんど知らないであろう人物である。ではこの本は何の本なのか。この本は「唯物論的に考えるとありそうでなさそうなもの、すなわち意味や自由や道徳などを、発生論的な視点から、いかにモノだけの世界に書き込むか」ということを、科学をベースにして考えることが主眼の内容になっている。それは哲学なのかというツッコミがくるかもしれないが、戸田山氏はこれこそが哲学だと考える。氏は科学の急激な発達により、心の問題に科学が侵食するようになった結果、心と物の世界を分けておくような従来の二元論哲学は終わりかけであると考え、これからの哲学は、科学の知見を真正面から受け止めたものに変わっていく必要があると主張する。従って、この本は相当に科学チックである。中盤に情報という章があるが、まずやることは情報の定義や数式的な扱いである。これだけ見ても普通の哲学書ではない。しかし、科学的な思考に慣れている人間にとっては、むしろしっくり来る。唯物論的であることが貫かれており、議論は地を這うように丁寧で、哲学嫌いな人が読める哲学書ではないかとさえ感じさせられた。哲学入門と名付けたにも関わらず、従来の哲学をバッサリと排除し、著者が考える新しい哲学を透徹するという姿勢には、内容云々を抜きにしても、どこか惹きつけられるものがある。
(751文字)

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