哲学な日々 考えさせない時代に抗して

『哲学な日々 考えさせない時代に抗して』野矢茂樹(著)

書評
執筆責任者:YY12
私は哲学者が書くエッセイが好きでよく読んでいる。「哲学」と「エッセイ」と聞くと、まるで相容れない二つのように思われるかもしれないが、そんなことはない。日々考えることをやめない哲学者の方々が、その視点だからこそ気づくことや日々の素朴な疑問について、「緑がまぶしい森の中を一緒に散歩しながら考えてくれる」ような温かみがそこにはある。著者の野矢茂樹氏は分析哲学を専攻しており、現在は東京大学の名誉教授である。しかし、一般向けに柔らかい語り口による哲学や論理学の入門書などの著作も多く、本書もそのうちの一つだ。本書はI部とⅡ部で構成されているが、Ⅰ部は「西日本新聞」の連載から抜粋された50のエッセイが収録され、Ⅱ部では東京大学の教養学部報や『人生に生きる価値はない』(中島義道)などに関しての書評がまとめられている。Ⅰ部は新聞の連載ということで、お年寄りから子供までの幅広い世代に読んでもらえるように教育の話や身近だけども哲学的な話が、時たま「ふふふ」と頬がゆるむような野矢氏独自の自虐的な語り口で書かれている。ほとんどのエッセイが味わい深く、興味深いものであり、その中でも特に気に入っているものはふとした気に読み返したくなってしまうほどだ。Ⅱ部では、東京大学の学生や普段から書物に親しむ人に向けて書かれているため、哲学者や教育者としての装いが強くなり「もう少しつっこんだ」展開もされる。その中では、自身が「哲学者」という道を歩むようになった経緯や思いの丈も綴られており、華々しい経歴をもち現在も活躍されている著者が20歳前後で抱えていた悩みや迷いは、現在その年代である私とも通じるものを感じられた。本書は「哲学」と題名に入っているが「エッセイ」としての色合いが強い。随所に「ひっかかる」ところも出てくると思うので、頭は動かして読んで頂きたいが、肩の力は抜いて「哲学者との散歩」を楽しんで欲しい。
(795文字)

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