トレイルズ 「道」と歩くことの哲学

『トレイルズ 「道」と歩くことの哲学』ロバート・ムーア(著)岩崎晋也(翻訳)

書評
執筆責任者:あんまん
著者ロバート・ムーアは全長3500キロに及ぶ自然歩道、アパラチアン・トレイルを5ヶ月かけて歩き通した。この本はそんな彼が、トレイルというものそのものについて探究した調査と歩行の跡であり、その道を読者は歩く。トレイルというのは道であるが、あらかじめ固定されたpathやroadではない。何者かが移動してできた跡である。トレイルは絶え間なく変化し、それは道をたどる者の選択にかかっている。歩くことがトレイルを形成するのだ。だから、長く残る道は人々の欲求を満たしており、その欲求が失われれば消える。また、人はトレイルをつくるが、トレイルもまた人をつくる。あなたがどの道を選択するかによってあなたという人格が形作られ、それにともなって好みも変化する。ムーアのトレイルの探究はゆっくりで、地に足を着いている。それは、ムーアがアパラチアン・トレイルを文字どおり地に足をつけて歩き通したからだろう。トレイルがより早く目的地に到着させてくれるほど、わたしたちは、ますます世界の複雑さや流動性から遮断され、固定され、近視眼的になってしまう。歩くというのは人間にとって最も身近でゆっくりとした移動手段である。現代はあらゆる移動手段が発達しているから、結論を急いで、足元の情報を見落としていないだろうか。読者は、この本を自分のペースでトレイルとは何か、道とは何かを読み解くなかできっと新たな発見ができるはずだ。トレイルの本質は構造ではなくその機能にある。だから、トレイルは地面の上に現れるものだけではない。そう考えると、この世界は膨大な数のトレイルが存在することに気づく。人生においてトレイルを見失いどこに行けば分からなくなっても、私たちは何らかのトレイルを歩いているのだと気づく。ふと、この道はどこからきてどこまで続いているのだろうと考えてみる。ほとんどが果てしないものばかりでその器量の大きさに私たちは助けられている。
(800文字)

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